小出 楢重
めでたき風景
めでたき風景
奈良公園の一軒家で私が自炊生活していた時、初春の梅が咲くころなどは、静かな公園を新婚の夫婦が、しばしば散歩しているのを私の窓から十分眺めることが出来た。彼ら男女は、私の一軒家の近くまで来ると必ず立ちどまる。そこには小さな池があり、杉があり、梅があり、亭があるので甚だ構図がよろしいためだろう。
そして誰も見ていないと思って彼ら二人は安心して仲がいいのだ。即ち細君を池の側へ立たせて、も少し右向いて、そうそう少し笑って見い、そやそや、といって亭主はピントを合せるのだが、私はそれらの光景をあまり度々見せられたためか、どうもそれ以来、写真機をぶら下げた紳士を見ると少し不愉快を覚えるのである。どうも写真機というものは実は私も持っているが、一種のなまぬるさを持っていていけない。
しかし、そのなまぬるさを嫌っては、どうも近代の女たちからの評判はよろしくないようだと思う。我々は古い男たちよと呼ばれざるを得ないであろう。