泉 鏡花
紫陽花
一
色青く光ある蛇、おびたゞしく棲めればとて、里人は近よらず。其野社は、片眼の盲ひたる翁ありて、昔より斉眉けり。
其片眼を失ひし時一たび見たりと言ふ、几帳の蔭に黒髪のたけなりし、それぞ神なるべき。
ちかきころ水無月中旬、二十日余り照り続きたる、けふ日ざかりの、鼓子花さへ草いきれに色褪せて、砂も、石も、きら/\と光を帯びて、松の老木の梢より、糸を乱せる如き薄き煙の立ちのぼるは、木精とか言ふものならむ。おぼろ/\と霞むまで、暑き日の静さは夜半にも増して、眼もあてられざる野の細道を、十歳ばかりの美少年の、尻を端折り、竹の子笠被りたるが、跣足にて、