与謝野 晶子
ひらきぶみ
みだれ髪
君
事なく着きし電報はすぐ打たせ候ひしかど、この文は二日おくれ候。光おばあ様を見覚えをり候はずなく、あたり皆顔知らぬ人々のみなれば、私の膝はなれず、ともすればおとうさんおとうさんと申して帰りたがりむづかり候に、わが里ながら父なくなりて弟留守にては気をおかれ、筆親み難かりしをおゆるし下されたく候。
こちら母思ひしよりはやつれ居給はず、君がかく帰し給ひしみなさけを大喜び致し、皆の者に誇りをり候。おせいさんは少しならず思ひくづをれ候すがたしるく、わかき人をおきて出でし旅順の弟の、たび/\帰りて慰めくれと申しこし候は、母よりも第一にこの新妻の上と、私見るから涙さしぐみ候。弟、私へはあのやうにしげ/\申し参りしに、宅へはこの人へも母へも余り文おくらぬ様子に候。思へば弟の心ひとしほあはれに候て。