宮本 百合子
大橋房子様へ
先日は脚本をわざわざまことに有難うございました。あれから丁度林町に出かけるところであったので、途中電車のさわがしさも忘れて拝見し始め、二三日うちにすっかり拝見致しました。いろいろの事を感じたので、早速、手紙を差上げたいと思いながら、少ししなければならない事があったので失礼致しました。
真個に今日の、少し自分と云うものを考え、周囲に批判的な眼を持つ私共位の女性は、皆な同じ不満、希望、失望を経験するものでございますね。あの御著書全部を貫いている思想的傾向は、その普遍的な性質に於て、私共のものであるとさえ申せますでしょう。或る箇所では、宛然自分の心がそこに顕れて物語っているように感じました。其にしても、総ての感情、理智の燃焼を透し、到る所に貴女のろうたきいきどおりとでも云うべきものが感じられるのは、非常に私の感興をそそりました。
きっと貴女の持っていらっしゃる詩興、詩趣によるものでしょう。結婚と云うものに対し、愛の発育と云うものに対し、抱いていらっしゃる貴女の全人的な趣味も其処にかなり多くの起因を持っているのではありませんでしょうか。
私も、女性が――人間全体が――もっと人間らしい自由な輝ある生活をしなければならないこと、特に女が、醒め、しっかり自分を視、人生を空虚な時間的推移でなく送るべきことを、しんみり希望し、期待して居ります。