芥川 竜之介
支那の画
松樹図
雲林を見たのは唯一つである。その一つは宣統帝の御物、今古奇観と云ふ画帖の中にあつた。画帖の中の画は大部分、薫其昌の旧蔵に係るものらしい。
雲林筆と称へる物は、文華殿にも三四幅あつた。しかしその画帖の中の、雄剄な松の図に比べれば、遙かに画品の低いものである。
わたしは梅道人の墨竹を見、黄大癡の山水を見、王叔明の瀑布を見た。(文華殿の瀑布図ではない。陳宝※(「王+深のつくり」、第3水準1-88-4)氏蔵の瀑布図である)が、気稟の然らしむる所か頭の下つた事を云へば、雲林の松に及ぶものはない。