素木 しづ

雛鳥の夢

まち子は焼けるやうに、椽からすべるやうに降りて、高い椽の下の柱の所にわづかばかりの日影を求めて、その中にちいさく佇んだ。

そして、いつものやうにうっとりと、明地のなかに植ゑた黄色や、赤の小さい瑪瑙のやうなのや、また大きな柿のやうなトマトを親しげに見まもりながら、またいつもの鶏が来てその實をつゝきはしないかと心をくばった。

太陽が、頭の上に火のやうに燃えたって、自分の行為のすべてに干渉するやうな、すべてが熱苦しくわづらはしい夏のさかり、それが漸くすぎて十一月とはなったものゝ、この南のはてには、木の葉の紅葉するといふ事も、落ちるといふことも、殆んど見られない。夏のさかりに姿を見せないやうな蚊がいま頃漸く出て来たり、赤土の上を匍ふとげとげしい、少しも草といふやはらかみのない草の上のをちこちに、土人の舌のやうな、あくどい真紅な花や、また真青な土人の腕の入墨のやうな花が漸くこの頃見えて来て、それに、きび畑が背たかくかぎりなくつゞくばかり。自然はます/\力強く暴虐に微笑してゐる。まち子の弱々しい、優しい心はとても親しむべきすべがなかった。彼女は、ちいさい時から、花の美しさ、やさしさ、自然の暖かさ、安らかさに育ぐまれて来た。彼女の生れた家は、北国の大きな農園のなかにあった。

彼女が輪まはしに駈けめぐる小路のあたりにはやはらかなクローバーが白い花をつけ、エルムのやさしい梢は彼女の頭の上に押しひろがって、ゆたかな影を与へて居た。そしてまた母の留守の時は温室のなかの藤椅子の上に美しいチューリップや、アネモネの上に瞳をすゑておとなしく暮したのであった。

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