芥川 竜之介

病牀雑記

一、病中閑なるを幸ひ、諸雑誌の小説を十五篇ばかり読む。滝井君の「ゲテモノ」同君の作中にても一頭地を抜ける出来栄えなり。親父にも、倅にも、風景にも、朴にして雅を破らざること、もろこしの餅の如き味はひありと言ふべし。その手際の鮮かなるは恐らくは九月小説中の第一ならん乎。

二、里見君の「蚊遣り」も亦十月小説中の白眉なり。唯聊か末段に至つて落筆※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)の憾みあらん乎。他は人情的か何か知らねど、不相変巧手の名に背かずと言ふべし。

三、旅に病めることは珍らしからず。(今度も軽井沢の寐冷えを持ち越せるなり。)但し最も苦しかりしは丁度支那へ渡らんとせる前、下の関の宿屋に倒れし時ならん。この時も高が風邪なれど、東京、大阪、下の関と三度目のぶり返しなれば、存外熱も容易には下らず、おまけに手足にはピリン疹を生じたれば、女中などは少くとも梅毒患者位には思ひしなるべし。彼等の一人、僕を憐んで曰、「注射でもなすつたら、よろしうございませうに。」

東雲の煤ふる中や下の関

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