芥川 竜之介
窓
――沢木梢氏に――
おれの家の二階の窓は、丁度向うの家の二階の窓と向ひ合ふやうになつてゐる。
向うの家の二階の窓には、百合や薔薇の鉢植が行儀よく幾つも並んでゐる。が、その後には黄いろい窓掛が大抵重さうに下つてゐるから、部屋の中の主人の姿は、未だ一度も見た事がない。
おれの家の二階の窓際には、古ぼけた肱掛椅子が置いてある。おれは毎日その肱掛椅子へ腰を下して、ぼんやり往来の人音を聞いてゐる。
芥川 竜之介
――沢木梢氏に――
おれの家の二階の窓は、丁度向うの家の二階の窓と向ひ合ふやうになつてゐる。
向うの家の二階の窓には、百合や薔薇の鉢植が行儀よく幾つも並んでゐる。が、その後には黄いろい窓掛が大抵重さうに下つてゐるから、部屋の中の主人の姿は、未だ一度も見た事がない。
おれの家の二階の窓際には、古ぼけた肱掛椅子が置いてある。おれは毎日その肱掛椅子へ腰を下して、ぼんやり往来の人音を聞いてゐる。