芥川 竜之介
わが散文詩
秋夜
火鉢に炭を継がうとしたら、炭がもう二つしかなかつた。炭取の底には炭の粉の中に、何か木の葉が乾反つてゐる。何処の山から来た木の葉か?――今日の夕刊に出てゐたのでは、木曾のおん岳の初雪も例年よりずつと早かつたらしい。
「お父さん、お休みなさい。」
古い朱塗の机の上には室生犀星の詩集が一冊、仮綴の頁を開いてゐる。「われ筆とることを憂しとなす」――これはこの詩人の歎きばかりではない。今夜もひとり茶を飲んでゐると、しみじみと心に沁みるものはやはり同じ寂しさである。
芥川 竜之介
秋夜
火鉢に炭を継がうとしたら、炭がもう二つしかなかつた。炭取の底には炭の粉の中に、何か木の葉が乾反つてゐる。何処の山から来た木の葉か?――今日の夕刊に出てゐたのでは、木曾のおん岳の初雪も例年よりずつと早かつたらしい。
「お父さん、お休みなさい。」
古い朱塗の机の上には室生犀星の詩集が一冊、仮綴の頁を開いてゐる。「われ筆とることを憂しとなす」――これはこの詩人の歎きばかりではない。今夜もひとり茶を飲んでゐると、しみじみと心に沁みるものはやはり同じ寂しさである。