芥川 竜之介
O君の新秋
僕は膝を抱へながら、洋画家のO君と話してゐた。赤シヤツを着たO君は畳の上に腹這ひになり、のべつにバツトをふかしてゐた。その又O君の傍らには妙にものものしい義足が一つ、白足袋の足を仰向かせてゐた。
「まだ残暑と云ふ感じだね。」
O君は返事をする前にちよつと眉をひそめるやうにし、縁先の紫苑へ目をやつた。何本かの紫苑はいつの間にか細かい花を簇らせたまま、そよりともせずに日を受けてゐた。
「おや、こいつはもう咲いてゐらあ。この………何と云つたつけ、団扇の画の中にゐる花の野郎は。」