芥川 竜之介

鬼ごつこ

彼は或町の裏に年下の彼女と鬼ごつこをしてゐた。まだあたりは明るいものの、丁度町角の街燈には瓦斯のともる時分だつた。

「ここまで来い。」

彼は楽々と逃げながら、鬼になつて来る彼女を振りかへつた。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追ひかけて来た。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。

その顔は可也長い間、彼の心に残つてゐた。が、年月の流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。

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