宮本 百合子
愛と平和を理想とする人間生活
芥川さんでしたか「私達の生活の側に天国をもって来るとしたら、きっと退屈してしまって、死んでしまいたくなるだろう」って云われたように覚えてますが、それは私も同感に思います。ですから理想などというものは、実現されるまでのその間が楽しいものであって、充されてしまったら存外つまらぬものかもしれません。けれどもどんな人にも慾望や理想はいくらかずつは持っていましょうし、またそこに人生の面白味があるのではないでしょうか。
私のえがいているもの――そうですね、私は慾張りの方ですから、随分いろいろな慾望がありますけれど、日常の生活でいえば、さしあたり静かなところへ旅行したいと思っています。同じ旅行でも関西方面より北の方がいいと思います。大阪、京都などのような都会は、違った文化が見られて悪るくはないと思いますが、旅として見て、東海道あたりの海が見え、松があるといった美しいだけで、唯長々と眠につづいている整然とした風景よりも、変化のある北の方が好ましいと思います。
旅行では一人旅よりも、気の合った友達と行くのが好きです。展開されゆく道中の景色を楽しく語合うことも出来ますし、それに一人旅のような無意味な緊張を要しないで気安い旅が出来るように思います。煩いのない静かなところに旅行して暫く落ちついてみたい――こんな慾望を持っていますが、さて容易いようで実行できないものですね。住いですか? これには面白い話しがありますのよ。今いる家は静かそうに思って移ったのですが、後に工場みたいなものがあって、騒々しいので、もう少し静かなところにしたいと思って先日も探しに行ったのですが、私はどちらかというと椅子の生活が好き