宮本 百合子

日記

ある夜

細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで歩いた、ああいう箪笥で、田舎くさく赤っぽい電燈の光に照らされ、引手のところの大きい円い金具が目立っている。郵便局の家であった。

目立つ箪笥を背にして、ずらりと数人の男が並んで坐っている。きちんと膝をそろえて坐っている一人一人の男の前に黒塗の足高膳が出ている。誰も喋っていず、食べてもいない。ただそうやって顔をこちらに向け並んでいる。知った顔は一つもない。

私は黙って土間から上った。並んでいる男の人達とは鍵のてになった四角い座敷の方に宮本がいる。わたしはそちらへ行った。こちらには膳が出ていない。新聞のようなものが畳の上に無雑作に出しぱなしになっていて、其処にいるだけの人々は一つの安心した気分で結ばれている。その気配が私にも感じられて、ゆとりのあるいい心持がした。

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