宮本 百合子
金色の口
ある年、秋が深くなってからヴェルダンへ行ったときのことがこのごろ折にふれて幾度か思い出される。ヨーロッパ大戦のとき、ヴェルダンは北部フランスの激戦地の一つとして歴史にのこされた。
ヴェルダン市とその周囲の山々につづく村落とはまったく廃墟となっていて、市役所の跡などはポンペイの発掘された市のとおり、土台だけが遺されている。
一望果しなく荒涼とした草原を自動車は疾駆し次第に山腹よりに近づき、ドーモンその他の砲台跡を見物させる。
もう朝夕は霜がおりて末枯れかかったとある叢の中に、夕陽を斜にうけて、金の輪でも落ちているように光るものがあった。そばへよって見て、私の胸はきつく引しぼられた。