宮沢 賢治

鳥をとるやなぎ

「煙山にエレッキのやなぎの木があるよ。」

藤原慶次郎がだしぬけに私に云いました。私たちがみんな教室に入って、机に座り、先生はまだ教員室に寄っている間でした。尋常四年の二学期のはじめ頃だったと思います。

「エレキの楊の木?」と私が尋ね返そうとしましたとき、慶次郎はあんまり短くて書けなくなった鉛筆を、一番前の源吉に投げつけました。源吉はうしろを向いて、みんなの顔をくらべていましたが、すばやく机に顔を伏せて、両手で頭をかかえてかくれていた慶次郎を見つけると、まるで怒り出して

「何するんだい。慶次郎。何するんだい。」なんて高く叫びました。みんなもこっちを見たので私も大へんきまりが悪かったのです。その時先生が、鞭や白墨や地図を持って入って来られたもんですから、みんなは俄かにしずかになって立ち、源吉ももう一遍こっちをふりむいてから、席のそばに立ちました。慶次郎も顔をまっ赤にしてくつくつ笑いながら立ちました。そして礼がすんで授業がはじまりました。私は授業中もそのやなぎのことを早く慶次郎に尋ねたかったのですけれどもどう云うわけかあんまり聞きたかったために云い出し兼ねていました。それに慶次郎がもう忘れたような顔をしていたのです。

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