泉 鏡花
山の手小景
矢來町
「お美津、おい、一寸、あれ見い。」と肩を擦合はせて居る細君を呼んだ。旦那、其の夜の出と謂ふは、黄な縞の銘仙の袷に白縮緬の帶、下にフランネルの襯衣、これを長襦袢位に心得て居る人だから、けば/\しく一着して、羽織は着ず、洋杖をついて、紺足袋、山高帽を頂いて居る、脊の高い人物。
「何ですか。」
と一寸横顏を旦那の方に振向けて、直ぐに返事をした。此の細君が、恁う又直ちに良人の口に應じたのは、蓋し珍しいので。……西洋の諺にも、能辯は銀の如く、沈默は金の如しとある。
泉 鏡花
矢來町
「お美津、おい、一寸、あれ見い。」と肩を擦合はせて居る細君を呼んだ。旦那、其の夜の出と謂ふは、黄な縞の銘仙の袷に白縮緬の帶、下にフランネルの襯衣、これを長襦袢位に心得て居る人だから、けば/\しく一着して、羽織は着ず、洋杖をついて、紺足袋、山高帽を頂いて居る、脊の高い人物。
「何ですか。」
と一寸横顏を旦那の方に振向けて、直ぐに返事をした。此の細君が、恁う又直ちに良人の口に應じたのは、蓋し珍しいので。……西洋の諺にも、能辯は銀の如く、沈默は金の如しとある。