泉 鏡花
逗子だより
夜は、はや秋の螢なるべし、風に稻葉のそよぐ中を、影淡くはら/\とこぼるゝ状あはれなり。
月影は、夕顏のをかしく縋れる四ツ目垣一重隔てたる裏山の雜木の中よりさして、浴衣の袖に照添ふも風情なり。
山續きに石段高く、木下闇苔蒸したる岡の上に御堂あり、觀世音おはします、寺の名を觀藏院といふ。崖の下、葎生ひ茂りて、星影の晝も見ゆべくおどろ/\しければ、同宿の人たち渾名して龍ヶ谷といふ。
店借の此の住居は、船越街道より右にだら/\のぼりの處にあれば、櫻ヶ岡といふべくや。
泉 鏡花
夜は、はや秋の螢なるべし、風に稻葉のそよぐ中を、影淡くはら/\とこぼるゝ状あはれなり。
月影は、夕顏のをかしく縋れる四ツ目垣一重隔てたる裏山の雜木の中よりさして、浴衣の袖に照添ふも風情なり。
山續きに石段高く、木下闇苔蒸したる岡の上に御堂あり、觀世音おはします、寺の名を觀藏院といふ。崖の下、葎生ひ茂りて、星影の晝も見ゆべくおどろ/\しければ、同宿の人たち渾名して龍ヶ谷といふ。
店借の此の住居は、船越街道より右にだら/\のぼりの處にあれば、櫻ヶ岡といふべくや。