宮本 百合子
「禰宜様宮田」創作メモ
桑野村にて
○日はうららかに輝いて居る。けれども、南風が激しく吹くので、耕地のかなたから、大波のように、樹木の頭がうねり渡った。何処かで障子のやぶれがビュー、ビュービューと、高く低くリズムをつけて鳴って居る。祖母が、因果なような音を立てて居ると云ったのが、いかにも適切な程、その音は、弱々しく陰気でありながら、絶え間ない執ねさで鳴って居る。
○地面と云う地面は到るところ、ゆるんでぬかって居る。
黄色な草の間を縫うて、まがりくねった里道には、馬のひづめのあとに轍が、一寸も喰い込んで、滅茶滅茶について居る。歩くのにも足駄でなければ、足の上の方までよごれる。