宮本 百合子
樹蔭雑記
六月二日
静かな快い日である。朝起きて、下の郵便局に行って見ると、抱え切れない程の小包が来て居る。皆日本からだ。仕方がないから、又家へ戻って、Aを呼んで半分ずつ抱えて帰る。
此の毎朝起きて着物を着るとすぐ何より先に、郵便局に出かけて行く心持は、恐らく、誰でも、海外に生活した事のある人は味わずにはすまされない心の経験であろう。
嬉しい。仮令一枚の葉書でも、故国から来たものとなると、心持が異う。毎朝、小さい鍵で、箱の蓋を開けるとき、自分は必ず丸い大様な書体で紙面を滑って居る母の手跡を期待して居る。