宮本 百合子
C先生への手紙
雑信(第一)
C先生――。
其後は大変御無沙汰致して仕舞いました。東京も、さぞ暑くなった事でございましょう。白い塵のポカポカ立つ、粗雑なペンキ塗の目に痛く反射する其処いらの路を想像致します。御丈夫でいらっしゃいますでしょう。
此間中から、私の思って居る種々の事を申上度いと思って居りましたが、つい延び延びに成って仕舞いました。決して忘れて居たのではございませんが、近頃、私の生活の上に起った変動は、非常に大きく私の精神上に波動を与えました。決して混乱ではございません。が、その大きく力強い濤が、勇ましく打寄せて、或程度まで落付いて仕舞うまで、私は口を緘んで、じっと自分の魂の発育を見守って居たのでございます。