宮本 百合子

小さき家の生活

一九二一年の十一月十四日、自分は不図、自分等の小さい家庭生活の記録を折にふれて書きつけて行く気になった。

或年まで生活し、後、振返って其経験を分解し、観察して見ることは、勿論興味あることだろう。然し、そうではなく、幾年か、感興が起るにつれて、その当時の心境なり、事件なりを、如実に描くことは又楽しい。結婚後、まる二年の年月を経、今、自分は、少くとも当面の生活には馴れたことを感じる。同時に落付いた。胸をわくわくさせるような物珍らしさが去った代りに、又文字に書き写せる丈、心に余裕が出来たのである。何年まで此が続くか、如何那ことが起って来るか、書く私自身も知り得ない未来が、我々の将来には横って居る。

家

Aが帰朝したのは、一九二〇年の四月二日である。帰った時、私は横浜から真直に彼をH町に伴った。勿論二人の棲むべき家が、何処に在り、如何なるものだかも問題にして居なかった。

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