有島 武郎

半日

地には雪、空も雪の樣に白み渡つて家並ばかりが黒く目立つ日曜日の午後晩く相島は玄關にあつた足駄をつツかけて二町計りの所に郵便を入れに行つた。歸り路に曲り角で往來を見渡したがそれらしい橇の影も見えぬ。「今日は廢めたのか知らん」と思ひながら横道を這入つて覺束ない足駄の歩みを運ばすと子供が凧の絲目をなほして居るのに遇つた。多分は父親でも造つてやつたのだらう、六角形の四枚張りで隅に小さく「佐倉」と名前が書いてある。日本の軍人が支那兵の辮髮を握つて劍を振上げた畫の赤や青に、雪がちら/\と降りかゝつて居る。「御免よ」と云ひながら相島は軟い雪に一足踏み込んでよけながら通つた。小兒は眞赤な顏を一寸上げて相島を見たなり又絲目をそゝくつて居る。

もう一つ角を曲ると自分の門が見えて、其の前には待ち設けた橇が留つて居た。齡の若さうな痩せた鹿毛が鼻尖で積んだ雪に惡戲をして居る。相島は其の馬をさすりながら又足駄を雪の中に踏み込んで門を這入ると、玄關の前に井田が居た。

「やア」

と相島は心の中で喜びながら快活に云ふと、井田は疲れた樣子でそれでもほゝゑみながら點頭いて見せた。

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