南部 修太郎

一兵卒と銃

霧の深い六月の夜だつた。丁度N原へ出張演習の途上のことで、長い四列縱隊を作つた我我のA歩兵聯隊はC街道を北へ北へと行進してゐた。

風はなかつた。空氣は水のやうに重く沈んでゐた。人家も、燈灯も、畑も、森も、川も、丘も、そして歩いてゐる我我の體も、灰を溶したやうな夜霧の海に包まれてゐるのであつた。頭上には處處に幽かな星影が感じられた。

「おい小泉、厭やに蒸すぢやないか‥‥」と、私の右隣に歩いてゐる、これも一年志願兵の河野が囁いた。

「さうだ、全く蒸すね。惡くすると、明日は雨だぜ‥‥」と、私は振り向き樣に答へた。河野の眠さうな眼が闇の中にチラリと光つた。

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