寺田 寅彦
断片(Ⅱ)
一
連句で附句をする妙趣は自己を捨てて自己を活かし他を活かす事にあると思う。前句の世界へすっかり身を沈めてその底から何物かを握んで浮上がって来るとそこに自分自身の世界が開けている。
前句の表面に現われただけのものから得た聯想に執着してはいい附句は出来ない。
前句がそれ自身には平凡でも附句がいいと前句がぐっと活きて引立って来る。どんな平凡な句でもその奥底には色々ないいものの可能性が含まれている。それを握んで明るみへ引出して展開させるとそこからまた次に来る世界の胚子が生れる。