寺田 寅彦

鑢屑

一

ある忙しい男の話である。

朝は暗いうちに家を出て、夜は日が暮れてしまってから帰って来る。それで自分の宅の便所へはいるのはほとんど夜のうちにきまっている。

たまたま祭日などに昼間宅に居ることがある。そうして便所へはいろうとする時に、そこの開き戸を明ける前に、柱に取付けてある便所の電燈のスウィッチをひねる。

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