田中 貢太郎

鬼火を追う武士

鶴岡城下の話であるが、某深更に一人の武士が田圃路を通っていると、焔のない火玉がふうわりと眼の前を通った。焔のない火玉は鬼火だと云う事を聞いていた武士は、興味半分に其の後を跟けて往った。

火玉は人間の歩く位の速度でふうわりふうわりと飛んでいた。武士は其の時其の火玉を斬ってみたくなった。武士は足を早めて火玉に近づいて往った。と、火玉は物に驚いたように非常な速力で飛びだした。それと見て武士もどんどんと走って追っかけた。

其のうちに火玉の前方に一軒の小さな農家が見えた。武士はそれを見て、人家があるなと思った時、火玉はいきなり其の農家の小窓の中へ飛びこんでしまった。武士は小窓の下へ往って立った。

と、其の時家の中で人声がした。

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