田中 貢太郎
狸と同棲する人妻
山形県最上郡豊田村に沓澤仁蔵と云う行商人があった。仁蔵は壮いに似あわず、家業に熱心で、毎日のように村から村へと行商に出かけて往った。其の仁蔵には直と云う近隣で評番の美しい女房があった。
それは昭和七年の二月のことであった。仁蔵は平生のように家を出て往ったが、どうしたものか其の日も其の翌日も、また其の翌日も帰って来もしなければ、手紙も送って来なかった。女房の直は心配して心あたりを探して歩いたが、何処へ往ったのか判らなかった。
其のうちに四月になって、山々の雪が解けかけたところで、仁蔵がひょっこりと帰って来た。直は仁蔵の顔を見るなり、
「まあ、おまえさん」