田中 貢太郎

法華僧の怪異

奈良県吉野郡掖上村茅原に茅原寺と云う真宗の寺院があった。其の寺院は一名吉祥草院。其処に役行者自作の像があって、国宝に指定せられているが、其の寺院に名音と云う老尼がいた。

私が其の名音に逢った時は、昭和三年で六十位であった。其の名音は、最初泉の某と云う庵にいて有徳の住持に事えていた。

名音が尼僧になったのは、中年になってからで、其の動機に就いては、小説にでもなりそうな哀話があるということだが、それに就いては語らなかった。

名音が泉の尼寺へ入って二度目の秋を迎えた時のことであった。某朝平生のように朝の礼拝を終って境内の掃除をしていたが、庭前に咲いた萩の花が美しいので、見るともなしに見ていると、近くの旅館から来た散歩客とでも云うような来客があった。それは三十二三の男と三十七八の女であったが、男は大島の着流しでステッキを突き、女は錦紗づくめの服装をしていた。

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