田中 貢太郎
怪しき旅僧
――此の話は武蔵の川越領の中の三ノ町と云う処に起った話になっているが、此の粉本は支那の怪談であることはうけあいである。
それは風の寒い夜のことであった。三ノ町の某農家の門口へ、一人の旅僧が来て雨戸を叩いて宿を乞うた。ところで農家ではもう寝ようとしているうえに、主翁は冷酷な男であったから初めは寝たふりをして返事をしなかったが、何時までたっても旅僧が去らないので、「もう寝たから、他へ往って頼むが好い」と、叱るように云った。
「そうでございましょうが、日が暮れて路がわからないうえに、足を痛めて、もう一足も歩けません、どうかお慈悲に庭の隅へなりと泊めてくださいまし」と、旅僧は疲れ切ったような声で云った。
主翁は返事をしなかった。