太宰 治

緒方氏を殺した者

緒方氏の臨終は決して平和なものではなかったと聞いている。歯ぎしりして死んでいったと聞いている。私と緒方氏とは、ほんの二三度話合っただけの間柄ではあるが、よい小説家を、懸命に努力した人間を、よほどの不幸の場所に置いたまま、そのまま死なせてしまったという事実に就いて、かなりの苦痛を感じている。

追悼の文は、つくづく、むずかしいものである。一束の弔花を棺に投入して、そうしてハンケチで顔を覆って泣き崩れる姿は、これは気高いものであろうが、けれども、それはわかい女の姿であって、男が、いいとしをして、そんなことは、できない。真似られるものではない。へんに、しらじらしく真面目になるだけである。

誰が緒方氏を殺したのか。乱暴な言葉である。窒息するほどいやな言葉である。けれども私は、この不愉快極る疑問からのがれることができなかったのである。どうにも、かなわないので、真正面から取り組んでしまった。

ひと一人、くらい境遇に落ち込んだ場合、その肉親のうちの気の弱い者か、または、その友人のうちの口下手の者が、その責任を押しつけられ、犯しもせぬ罪を世人に謝し、なんとなく肩身のせまい思いをしているものである。それでは、いけない。

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