森 鴎外

鶏

石田小介が少佐参謀になって小倉に着任したのは六月二十四日であった。

徳山と門司との間を交通している蒸汽船から上がったのが午前三時である。地方の軍隊は送迎がなかなか手厚いことを知っていたから、石田はその頃の通常礼装というのをして、勲章を佩びていた。故参の大尉参謀が同僚を代表して桟橋まで来ていた。

雨がどっどと降っている。これから小倉までは汽車で一時間は掛からない。川卯という家で飯を焚かせて食う。夜が明けてから、大尉は走り廻って、切符の世話やら荷物の世話やらしてくれる。

汽車の窓からは、崖の上にぴっしり立て並べてある小家が見える。どの家も戸を開け放して、女や子供が殆ど裸でいる。中には丁度朝飯を食っている家もある。仲為のような為事をする労働者の家だと士官が話して聞せた。

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