アンデルセン ハンス・クリスチャン
ひこうかばん
挿絵
むかし、あるとき、お金持のあきんどがありました。どのくらいお金持だといって、それは町の大通のこらず銀貨で道をこしらえて、そのうえ横町の小路にまでそれをしきつめて、それでもまだあまるほどの[#「ほどの」は底本では「ほのど」]お金を持っていました。でも、このあきんどは、そんなことはしません。もっとほかにお金をつかうことをかんがえて、一シリングだせば、一ターレルになってもどってくる工夫をしました。まあ、そんなにかしこいあきんどでしたが――そのうち、このあきんども死にました。
そこで、むすこが、のこらずのお金をもらうことになりました。そうしてたのしくくらしました。毎晩、仮装舞踏会へでかけたり、お札でたこをはってあげたり、小石の代りに、金貨で海の水を打ってあそんだりしました。まあこんなふうにすれば、いくらあっても、お金はさっさとにげていってしまうでしょう。とうとうむすこはたった四シリングの身代になってしまいました。身につけているものといっては、うわぐつ一足と、古どてらのねまきのほかには、なにもありません。こうなると、友だちも、いっしょに往来をあるくことをきまりわるがってまるでよりつかなくなりました。でもなかでひとり、しんせつな友だちがいて、ふるいかばんをひとつくれました。かばんのうえには、「これになにかおつめなさい。」とかいてありました。いやどうもこれはたいへんありがたいことでした。けれど、あいにくなにもつめるものがないので、むすこはじぶんがそのかばんのなかにはいっていました。
ところが、これが、とんだとぼけたかばんでした。錠前をおすといっしょに、空のうえにまい上がるのです。ひゅう