豊島 与志雄
白日夢
晩春の頃だった。
私達――私と妻と男の児と女中との四人――は新らしい住居へ移転した。まだ道具もそう多くはなかったので、五六日で家の中は一通り片付いて、私はほっとした気持で、縁側に腰掛けて煙草を吹かしながら、庭の面をぼんやり眺めてみた。庭と云っても僅かに六七坪のものだったが、二三本の植込の木下に、鮮かな緑の雑草が、ぽつりぽつりと萠え出していた。それを見ていると、私の心は晴れやかになった。新らしい住居と共に新らしい幸福がやってくる、といったような思いが湧いてきた。そして向うの室にいた妻を呼びかけて、実際そう口に出してまで云った。
「ええ、」と妻は答えた、「今月からあなたの月給がふえるかも知れませんわ。」
「馬鹿!」