豊島 与志雄
土地
鬱陶しい梅雨の季節が過ぎ去ると、焼くがような太陽の光が、じりじりと野や山に照りつけ初めた。畑の麦の穂は黄色く干乾び、稲田の水はどんよりと温み、小川には小魚が藻草の影に潜んだ。そして地面からまた水面から、軽い陽炎がゆらゆらと立昇るのを、蒸し暑い乾いた大気は呑み込んで、重くのろのろと、何処へともなく押し移ってゆき、遠い連山の峰からは、積み重り渦巻き脹れ上る入道雲が、むくむくと頭をもたげてきた。
重苦しい真昼の静寂が大地を蔽っていた。埃で白い街道の上には行人の姿も見えなかった。街道は村落の間をぬけて、平野の上を真直に続いていた。一方が水田に他方が畑になっていて、流れのゆるやかな水の深い小川の石橋を越すと、所々に小松や灌木の生えた荒地の中に分け入り、それから野の彼方に消えている。
荒地の中には、まばらな小松や灌木の間に、低い荊棘や茅草が茂っていて、小さな花がぽつりと咲いていたりする。その片隅で、平助は鍬の柄を杖に腰を伸して立上った。
「夕立が来なけりゃええがなあ。」