豊島 与志雄
狐火
一
馬方の三吉というよりも、のっぽの三公という方が分り易かった。それほど彼は背が高かった。背が高いばかりでなく、肩幅も広く、筋骨も逞ましく、力も強く、寧ろ大男というべきだったが、それに似合わず、どこか子供らしい無邪気な気質を持っていたので、のっぽの三公という綽名がよく人柄についていた。底知れぬ酒飲みで、飲むと気嫌がよくなるということも、如何にものっぽらしかった。
その日のっぽの三公は、可なり酒を飲んでいい気持になっていた。索麪の箱を二つ積んだばかりの空車にも等しいのを、馬の気儘に引かせながら、自分は馬車の上に乗っかって、酔心地をがらがら揺られてると、ついうっとりとした気持になっていった。
ぼんやりした薄暮の明るみが、山裾や野の上に淀んでいた。遠く打続いた麦畑の青や丘々の新緑が、ひっそりと静まり返って、街道の淋しい松の梢に小鳥がちちと鳴いていた。