豊島 与志雄

丘の上

丘の上には、さびれた小さな石の堂があって、七八本の雑木が立並んでいた。前面はただ平野で、部落も木立も少く、農夫の姿も見えない、妙に淋しい畑地だった。遠くに一筋の街道が、白々と横たわっていた。その彼方、暗色に茫とかすんでる先に、帯を引いたような、きらきら光ってる海が見えていた。

その丘の上の、木立の外れの叢の上に、彼等は腰を下した。枝葉の密なこんもりと茂った白樫が、濃い影を落していてくれた。彼は帽子とステッキとを傍に投り出して、ハンカチで顔を拭いた。汗を拭き去られたその額が、蒼白かった。が彼女の顔は、白樫の葉裏の灰白色の反映を受けてか、更に蒼白かった。眼を伏せて、日傘の柄を膝の上でもてあそんでいた。

どこにも入道雲の影さえ覗き出していないのが、不思議だと思われるくらいに、空はあくまで晴れ渡って、真夏の日の光が、あたり一面に、そして眼の届く限り一面に、じりじり照りつけていた。淋しい蝉の声が、木立の中に封じこまれていた。乾燥しきった微風が、ゆるく流れていった。

「あああれですね。」

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