豊島 与志雄
黒点
前から分っていた通り、父は五十歳限り砲兵工廠を解職になった。
十二月末の、もう正月にも五日という、風の強い寒い日だった。父はいつになく早く帰ってきた。
「電気はまだか、薄暗くなってるに。」
初めは怒鳴りつけるような、後は泣くような、声の調子だった。が、まだどこか昼の光の残ってる中につけられた、赤っぽい電燈の光で見る父の顔に、私はなお一層びっくりした。父は弁当箱を抛り出して、火鉢の前にぼんやり坐っていた。その顔付がまるで腑脱けのようで、眼だけが気味悪く光っていた。
豊島 与志雄
前から分っていた通り、父は五十歳限り砲兵工廠を解職になった。
十二月末の、もう正月にも五日という、風の強い寒い日だった。父はいつになく早く帰ってきた。
「電気はまだか、薄暗くなってるに。」
初めは怒鳴りつけるような、後は泣くような、声の調子だった。が、まだどこか昼の光の残ってる中につけられた、赤っぽい電燈の光で見る父の顔に、私はなお一層びっくりした。父は弁当箱を抛り出して、火鉢の前にぼんやり坐っていた。その顔付がまるで腑脱けのようで、眼だけが気味悪く光っていた。