豊島 与志雄

操守

一

吉乃は、いつものんきで明るかった。だから或る男たちは、彼女をつまらないと云った。のんきで明るいだけなら、人形と同じだ。人形を相手に遊ぶのは、子供か老人――ロマンチックな初心者か、すれっからしの不能者か……。だが普通の者にとっては、酒の後では、煙草の味が一層うまいように、何かしら、賑かさが、淋しさが、色っぽさが、あくどさが、媚が、邪慳が、或は……兎に角刺戟が、嬉しいものだ。そこを吉乃は、明るくにこついているばかりで、技巧を弄することもなく、あけっぱなしでのんきで、別に面白そうでもなく、また不愉快そうでもない。だから相手も、面白くもなく、不愉快でもない。それでいて、彼女は相当に流行妓だった。

宿酔の頭の中は、霧の夜の風景だ。奇怪な形象が、宙に浮んで、変幻出没して、朧ろな光が、その間に交錯する。ひどく瞬間的で、その瞬間の各々が、永遠の相を帯びている。然し永遠の相は、霧の中に没し去って、その重みのため、瞬間が引歪められ、引歪められ……遂には、空々漠々となる。佗びしい倦怠。平凡なもの、和やかなもの、眠たげなものが、ぼんやり覘き出す……。記憶の底に、思いがけなく、一種のはがいさで、吉乃の姿が……。

すらりと背の高い、その肌の綺麗なのが特長で、ほそ面の十人並の顔立……。気持よく伸びてる首、無意味に高い鼻、しまりのない唇から洩れる金歯の光、わりに不活溌な、でも物怖じせぬ眼付、それに綺麗な肌を以てして、彼女は、余りにのんきすぎるか、智恵がまわりかねるか、そういったおおまかさを具えていた。湯にはいるのが楽しみらしく、それも肌をみがくではなく、勝手に湯加減をぬるくしておいて、ぼんやりと、長々と、

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