豊島 与志雄
南さんの恋人
一
少しいたずら過ぎたかな? だが、まあいいや。
その朝、室の有様は、おれの気に入った。
窓に引かれてる白いカーテンを通して、曇り日らしい薄明りが空の中に湛え、テーブルの上のスタンドの電燈が、いやにぼんやりしていた。殆んど何の装飾もない白いだだ広い室……。窓寄りのベットに、南さんが、顔まで毛布をかぶり、長髪を枕の上に乱して、死人のように眠っていた。テーブルのスタンドのわきには、帽子、カラー、ネクタイ、紙入、時計、大きな木札のついた鍵……。中央の円卓には、ビール瓶が二本、一本はからで、一本は栓もぬいてなく、コップ二つ、リキュールのグラスが二つ。それから扉寄りに、も一つベットがあって、寝具は少しも乱されてないが、その上に、南さんの服装が、外套からシャツや腹巻まですっかり、とりちらされていた。腹立ちまぎれに自分で脱ぎすてたものか、或は、急病の手当に誰かが脱がして投げ出したものか、そういった有様で、片隅の衣裳戸棚はまるで忘れられていた。それから、南さんの服装のわきに、ベットの裾の方に、くしゃくしゃなタオルの寝間着が一枚、無雑作に放りだしてあった。それが全体の有様から見て、つまりこの室は、宿泊されたのではなく、寝られたに過ぎないのだ。