豊島 与志雄
金魚
「金魚を見ると、僕はある春の一日のことを思い出して、いつも変な気持になる、」と云ってSが話したことを、そのまま三人称に書き下したのが、次の物語りである。
彼は愉快で堪らなかった。何故だか分らなかったが、心が軽く空中に漂っているような心地だった。愉快というものは、うち晴れた空に浮んでる雲のようなものだ、と彼は思った。
それは美しく晴れた春の日だった。
朝八時半に眼を覚した。考えてみると、丁度十時間ばかり眠ったらしかった。暫く床の中でぼんやりした後、起き上ると、頭が常になく爽かだった。