豊島 与志雄

「自然」

私の家の東側は、低い崖地になっている。崖下の地先まで六七間、二三の段階をなしてる傾斜である。数本の落葉樹が新緑の枝葉を交差し、小鳥の往来繁く、地面には落葉積り、雑草生い茂り、昆虫類が戯れている。かくてこの崖地、僅かの坪数ながら、自然の風趣に富む。

庭先に椎の古木がある。この常緑樹は、他の落葉樹と異って、晩春初夏の頃、盛んに古葉を散らし、余剰の花を降らせる。風の日には、朝夕、狭い庭のあちこちに、落葉の渦が巻く。それを掃き集めて崖地に撒布するのが、家人の日常雑用の一つとまでなっている。

不思議なのは、物の感じである。庭先にあって目触りとなる落葉は、自然のまま放置されてる崖地に撒かれると、おのずからその所を得て落付き、却って人目を慰める。落葉ばかりでなく、枯枝や藁屑までも、この崖地はその「自然」のなかに、抱擁し同化する。

その崖地に、私は家居の日幾度か、おのずから誘い込まれる。落葉、枯枝、藁屑、雑草、昆虫、小鳥、青葉、遠く家並を越えてくる微風、点々とした日の光……。

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