豊島 与志雄
樹を愛する心
庭の中に、桃の木があった。径五寸ばかりの古木で、植木屋が下枝を払ってしまったので、曲りくねった風雅な一本の幹だけが、空間に肌をさらしていた。だが、その上方、若枝の成長はすばらしかった。強く、盛んに、爆発めいた勢で、枝葉が四方へ伸びた。沢山の実がなった。その精力と重みとは、それを支える古い幹には、堪え難そうに思われた。
危い! と私は思った。
――少し刈りこんであげようか?
桃の木はその重い頭を、平然と振っている。強い風には急に、弱い風にはゆるやかに、頭を振っている。
豊島 与志雄
庭の中に、桃の木があった。径五寸ばかりの古木で、植木屋が下枝を払ってしまったので、曲りくねった風雅な一本の幹だけが、空間に肌をさらしていた。だが、その上方、若枝の成長はすばらしかった。強く、盛んに、爆発めいた勢で、枝葉が四方へ伸びた。沢山の実がなった。その精力と重みとは、それを支える古い幹には、堪え難そうに思われた。
危い! と私は思った。
――少し刈りこんであげようか?
桃の木はその重い頭を、平然と振っている。強い風には急に、弱い風にはゆるやかに、頭を振っている。