横光 利一

日輪

序章

乙女たちの一団は水甕を頭に載せて、小丘の中腹にある泉の傍から、唄いながら合歓木の林の中に隠れて行った。後の泉を包んだ岩の上には、まだ凋れぬ太藺の花が、水甕の破片とともに踏みにじられて残っていた。そうして西に傾きかかった太陽は、この小丘の裾遠く拡った有明の入江の上に、長く曲折しつつ※(「二点しんにょう+向」、第3水準1-92-55)か水平線の両端に消え入る白い砂丘の上に今は力なくその光を投げていた。乙女たちの合唱は華やかな酒楽の歌に変って来た。そうして、林をぬけると再び、人家を包む円やかな濃緑色の団塊となった森の中に吸われて行った。眼界の風物、何一つとして動くものは見えなかった。

そのとき、今まで、泉の上の小丘を蔽って静まっていた萱の穂波の一点が二つに割れてざわめいた。すると、割れ目は数羽の雉子と隼とを飛び立たせつつ、次第に泉の方へ真直ぐに延びて来た。そうして、間もなく、泉の水面に映っている白茅の一列が裂かれたとき、そこには弦の切れた短弓を握った一人の若者が立っていた。彼の大きく窪んだ眼窩や、その突起した顋や、その影のように暗鬱な顔の色には、道に迷うた者の極度の疲労と饑餓の苦痛が現れていた。彼は這いながら岩の上に降りて来ると、弓杖ついて崩れた角髪をかき上げながら、渦巻く蔓の刺青を描いた唇を泉につけた。彼の首から垂れ下った一連の白瑪瑙の勾玉は、音も立てず水に浸って、静かに藻を食う魚のように光っていた。

一

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