豊島 与志雄
傍人の言
「文士ってものは、こう変に、角突きあってる……緊張しあってるものだね。」
そうある人が云った。――この人、長く地方にいて、数ヶ月前に東京へ立戻ってきたのであるが、文学者や画家に知人が多く、といって自分では何にも書きも描きもしないで、少しばかり教師をして、多くは遊んだり読んだり観たりしてるのである。実際的には余り役に立たない存在であるが、いろんな点で、私が敬愛している友人なのだ。――それが、いきなり右のようなことを云い出したのである。私には、とっさに、理解できなかった。
聞いてみれば、実は、或る記念会のことなのである。――三四十人集まった会合だが、そこに来てる文士たち、互に知り合いの仲で、挨拶をしあったり話をしあったりしていたが、その態度がおかしいというのだ。煙草の吸い方、口の利き方、笑い方、眼のつけ方……そのどこにも、ほんとに打ち解けた朗かさがなくて、わきから見てると、お互に緊張しあってる……俗に云えば、同じ職業の女同士のように、角突きあってるとしか見えない……。
「それでいて、個人的に逢えば、誰もみな好人物だし、酒をのめば、しめくくりのないだらしなさをさらけだすんじゃないか。それが、公の席上で顔を合わせると、好人物同士が、だらしのない者同士が、お互に緊張しあってるんだから、僕たちから見ると、おかしいんだ。」