豊島 与志雄
性格を求む
クロポトキンは、チェーホフについて次のようなことを云っている。――
若し社会の進化に何等かの理論があるものとすれば、文学が新たな方向を取り、既に人生に芽ぐみつつあるところの新たなタイプを造り得るに先立って、チェーホフのような作者が現われなければならない。兎に角、そういう場合には印象の深い別れの言葉が云われなければならないのである。その別れの言葉を云うのが、チェーホフのやったところのものである。
これは意味深い言だ。たとい社会の進化に何等の理論もないとしても、その変革期には、誰かによって別れの言葉が云われなければならない。
誰かによって、殊に文学者の誰かによって……。