豊島 与志雄
ふざけた読書
某氏ある時、年賀状の返信を書いていた。固より、こちらから先に賀状を出すような人ではない。受取ったものに一つずつ返信を書いてゆくのである。然るに賀状の中には、往々、姓名だけで住所のついていないのがある。某氏は遂に筆を投じて、歎息して云う。「住所を書きこむくらいの配慮はしておいて貰いたいものだ。人に返信を書かせるばかりか、名簿をくって住所を探し出すの労をもとらせる。こんなのは却て礼を失するものだ。」
そういう気分の時には、賀状を書くべからずである。
某氏ある時、数冊の寄贈書の中から一冊を選び、炬燵かなにかにあたりながら、その書物を覗こうとすると、折り畳みのまま裁断してないものだった。彼はその紙をぱらぱらとめくって、歎息して云う。「書物の縁を裁つくらいの配慮はしておいて貰いたいものだ。人にわざわざ読ませるばかりか、頁を切るの労をも取らせる。こんなのは読者に親切な所以ではない。」
そういう気分の時には、書物を読むべからずである。