豊島 与志雄
幻の園
祖母はいつも綺麗でした。痩せた細そりした身体付で、色が白く、皮膚が滑かでした。殊に髪の毛が美事でした。多くも少くもないその毛は、しなやかに波うって、ぼーっと薄暮の色を呈していました。際立った白髪の交らない、全体の黒みがいちどに褪せたそういう髪を、私は他に見たことがありません。
祖母は病身のようでしたが、別に寝つくこともありませんでした。仕事という仕事をしたことがなく、手なぐさみに何かいじくったり、新聞や絵本をよんだり、またよく縁側の日向で、何にするのか、紙縒をよっていました。
私は兄弟姉妹がなく、ただ、一人ぽっちでした。祖父や両親は用が多かったので、祖母も一人ぽっちのようでした。それで私と祖母とは一番仲よく遊びました。夜になると床を並べてねて、祖母からいろんなお話をきくのが、私の何よりの楽しみでした。
そのお話の一つ――。