豊島 与志雄
高千穂に思う
高千穂峰はよい山である。
霧島神宮駅から、バスで約二十分、霧島神宮前に達する。数軒の簡易な旅館がある。その一軒の店先で、六月上旬の梅雨のはれまの或る日、私はただ一人、登山姿といっても、洋服の上衣をぬぎ、ズボンの裾をまくり、靴を足袋とはきかえ、草鞋をつけ、金剛杖を手にしたに過ぎない。ここから高千穂の頂上まで七キロ半ばかりの道程、普通の足なら六時間で往復されるのだ。
狭くて深い谿谷の上に架してある神橋を渡り、石段をのぼり、朱塗りの鳥居をくぐり社務所の前を右折すれば、正面が神宮社殿である。その社殿に至る石段の下、警士の哨舎の前を、左へとって登山道である。
暫くは杉の木立、やがて、暖帯常緑濶葉樹の天然林となる。