豊島 与志雄

中支生活者

杭州へ行った人は大抵、同地の芝原平三郎氏の存在に気付くであろう。

杭州は蒋政権軍資の源泉の一つでもあったし、また抗日意識の最も旺盛な土地の一つでもあったし、最近まで軍事上の前線的地域に位置してもいた。然るに今日、この地の治安は美事に確保されている。それには種々の原因もあろうが、芝原氏の力も大に与っているように思われる。

芝原氏は或る要職についてる人であり、其背後関係も見逃してはならないが、然し何よりも、杭州の×××の顧問をし、また××の顧問をもかね、×××の元締であり、且つ街の親分である。

杭州に新世界という謂わば綜合娯楽場があり、各種の娯楽機関が備わっている。この中庭の卓子の一つに腰を下し、芝原氏と共に茶をすすっていると、通りがかりの市民たちが芝原氏に挨拶をしてゆく。それらの人々の中には、町の顔役もあり、与太者もあり、職業婦人もあり、新世界に出入りするあらゆる種類の人がある。

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