豊島 与志雄
竜宮
今時、竜宮の話などするのはちとおかしいが、また逆に、こういう時代だから、竜宮の話も少しはしてよかろう。
竜宮といえば、先ず、「浦島太郎」の昔話が思い出される。これは誰でも知ってるもので、ここに梗概を述べるにも及ぶまい。
ただ、注目すべきは、浦島太郎が竜宮の乙姫様から貰ってきた玉手箱のことだ。あの箱を開けたために、三年の月日が三百年の現実に還り、浦島はよぼよぼの老人になってしまった。然し、もしあの箱を開けなかったら、どうだったであろうか。浦島は永く青春を保ち得たであろうか。或るいは竜宮へまた戻れたであろうか。どちらも疑わしい。
このようなことは、然し、この昔話では問題にしないがよかろう。青春や享楽に対する愛惜として、素直に受け取るべきものであろう。